テキスト ボックス: (敬称略)

岩田:
 それでは皆様に一度ご登壇いただいて、ディスカッションに入っていきたいと思います。よろしくご準備をお願いします。どうぞ前へ。

 司会、進行を務めさせていただく、岩田です。また、バニンコバ先生にお手伝いをいただくことになっております。

 これまで頂戴した3つの報告と2つのコメントで、本日のテーマに関する主要な議論は出尽くしていると思います。

第1に、なぜ今回のソブリン危機が起きたのか、そして2008年の金融危機がどのような経緯を辿って現在の危機に至りついたのかという、危機の要因分析にかかわる点です。この点は、ベックス氏の報告スライド5に適切にまとめられているように、報告者にもコメンテーターにも共通の認識があったように思われます。

 第2は、危機の展開を通じて明らかになったEUの制度上の不備をどのように修復すべきか、という問題です。具体的には、緊急時対応策であるEFSM-EFSFと本年創設予定のESM(欧州安定化メカニズム)の資金規模(ファイアウォール)が現在の議論の水準でよいのか、そうした財政危機時の緊急対応システムにECBはどのようにかかわるべきか、さらに昨今の財政協定(Fiscal Compact)の内容はこれで十分かといった議論、さらに現在3案併記の提案がなされ議論されているユーロ共同債(もしくは安定債)の制度設計は如何にという議論等々です。これらの点については、若干の意見の相違が見受けられるように思われます。これらの点について一層踏み込んだ議論ができればよいと思います。

 第3が、今回の危機を受けて、たたかわされているより大きな議論で、財政同盟(フィスカル・ユニオン)とか政治統合といったEU統合の深化のスタイルに関する議論です。例えばトランスファー・ユニオンという議論が昨年来ヨーロッパでもいろいろ活発にされているようですし、フィスカル・ユニオンというのは70年代以降ずっと議論されてきたことで、単一財政制度なき単一通貨で大丈夫かという議論もアカデミックな世界では長い間やってきたわけです。それが今、目の前で、ある進化(エボリューション)を遂げているわけです。いったいどういうような財政システムをEUとして創っていくのだろうかという点です。この点については、さまざまな議論が今、錯綜しているところではないかと思います。尾上先生のご報告を踏まえますと、そもそもトランスファー・ユニオンというものはどういうものなのか、それからフィスカル・ユニオンというのはどういうものなのか、財政連邦主義というものをどういうふうに考えたらいいのか、さらに、それを実現するタイムスパンというのはどういうものなのか、このようなことがやはり我々全体に提起されているのではないかと考えられます。こうしたEUの将来構想についても是非議論を深めることができればと考えております。

 これに限りませんが、今日は貴重なコメントを二人の先生方からいただきましたので、今私がまとめたようなポイントを少しお含みおきいただきながら、今日報告された三名の先生にコメントをお願いしたいと思います。

バニンコバ:
 はい。岩田教授、まとめをありがとうございました。それでは、ただいまの中島氏と高屋教授のお話を受けて、三人のスピーカーの方々にご意見をうかがいたいと思います。それぞれ10分程度お話しいただければと思います。まずはベックス博士から、ご意見をうかがえますか?

ベックス:(非掲載)

バニンコバ:
 ベックス博士、どうもありがとうございます。それでは、次にローリンソン教授に、スピーカーの方々が提起された点についてコメントをいただきたいと思います。

ローリンソン:
 ありがとうございます。スピーカーの方々と議長が提起したいくつかの点について、述べさせていただきたいと思います。まず、「財政同盟(fiscal union)なき貨幣同盟(monetary union)」という点です。財政同盟に向かってどれくらい進むべきなのでしょうか、また、進むことができるのでしょうか。私は、そこに到達することはできないと思います。財政同盟に向かってある程度は進むでしょうが、小さなステップで進むと思います。そして、次のステップは、協定に定められています。それは、さらに深く、広範囲な財政政策の協調を要するものです。そして、この分野であまり速く進めない理由は、国家の主権です。加盟国はこの分野において完全に主権を手放すことはしません。現時点では、さらなる協調以上のことは望めないと思います。しかし将来的には、財政同盟に向かってさらに進むことになるでしょう。財政の協調は、非常に難しい注文で、実現が非常に困難なものです。なぜなら、通貨統合全体の利益のために自国の財政政策を調整しなければならないからで、今のところ、それはほとんど実行されていません。それはつまり、ドイツのような力のある大国が、例えばギリシャのような、力が弱い、行政があまりうまくいっていない国を助けるために、自国の財政政策を調整しなければならないことを意味します。ドイツにとっては、自国の黒字や、自国の銀行による配慮のない融資が、危機の一因であると認めることは、非常に難しいことです。しかし主な問題は、協調すること、通貨統合全体の利益のために自国の政策を調整し、協調することが困難だということです。これは非常に難しいことです。なぜなら、加盟国が今でも持っている主権の大部分は、財政の分野の、税制や社会制度における主権だからです。

 第二に、市場について中島氏がおっしゃったことについて述べたいと思います。市場規律が機能するようにしなければならないという意見には、まったく賛成です。市場がうまく機能し、国債や証券のリスクの評価について、誤った信号ではなく、市場を正しい方向へ導く信号を出すように、私たちは支援しなければなりません。政治家は、市場をあまりよく理解していないのかもしれません。官僚は、政治家が市場を理解する手助けをするべきで、私たちは市場に干渉し過ぎるような措置をとらないようにする必要があります。現時点のEUには、その危険があるのではないかと懸念しています。証券市場の規制強化に向かう提案があるからです。少なくとも私には、その危険があるように見えますが、この分野は私の専門ではありません。

 次は、債務不履行の可能性と、PSI、つまり(危機の予防・解決における)民間セクター関与についてですが、債務不履行の可能性が、ある程度は存在することが必要です。すべての国債を保証することがあってはならないからです。それは非現実的です。しかし、一方では、リスクをあまり大きくすることもできません。債務不履行のリスクが大きい債券はだれも買わないからです。つまり、財政協調のシステムは、債務不履行のリスクを軽減し、債務不履行のリスクにつながるような状況を回避するものでなければなりません。リスクは存在するべきであり、今後施行される債券についての条項は、市場にとっては良いものです。将来的にリスクをもっとうまく評価できるよう導くものだからです。しかし、リスクは食い止めるべきです。そのようなリスクが実際に発生することを防止するようなシステムを確立するべきだということです。

 一つの問題は、ユーロ共同債ですが、私はもちろん、ベックス博士の意見に賛成です。つまり、危機がさらに深刻になればユーロ共同債が導入されるでしょうが、深刻化せず、現時点で食い止められれば、将来的には導入されるかもしれませんが、現時点で導入されることはないでしょう。ユーロ共同債については、モラル・ハザードはない、あるいは防ぐことができると思います。ただし、財政の十分な協調により、過剰な債務の累積を防止し、債務を阻止することが条件です。もちろん、ユーロ共同債は、過剰な赤字や負債の累積を防止するという保証を含むものでなければなりません。

 次に構造改革についてですが、ヨーロッパでは、今でも先進国との間で競争力の格差があり、今のユーロ圏ではかなり少数ですが、特にギリシャ、そしてポルトガルがそうで、おそらくユーロ圏の他の国々も、スペインやイタリアのように構造改革を続ける必要があると思います。それは非常に必要なことで、現在、進行しています。問題は、ギリシャがそれを迅速に進めることができるかということ、そしてポルトガルが調整を、構造改革を進めて、発展途上国のようなタイプの輸出に依存せず、よりバランスのとれた、多様性のある経済を実現できるかということです。

 イギリスについて、個人的な考えを述べさせていただきます。これは個人的な考えで、これまで提起されていないポイントです。私はイギリス人として、イギリスがEUから分離しつつあることを非常に残念に思います。これはイギリスの人々が経済について他とは異なる見方をしていたり、独自の経済的関心を持ったりしているからではなく、単純に、EUについて、EUに加盟していることの利益についての適切な情報が不足していることが原因だと思います。そして、すべての国々、特にイギリスの政治家に、EU加盟の利益を国民に説明する努力をしてほしいと思います。そして、イギリスのマスコミには、EUについて敵対的な報道をするのを控えてほしいと思います。

 そして、最後の点ですが、ここ数週間は、危機が阻止されていることを期待させる兆候が表れていること、対策が効果を発揮し始めたこと、そして格付け機関による格下げに市場が反応しなかったことをとてもうれしく思います。特にアイルランドについては、うれしく思います。私の出身地は英国の中でもアイルランドに非常に近い、イングランド北西部にあり、人口の約30%は、もともとアイルランドから来た人々です。アイルランドが回復の兆しを見せていることをうれしく思います。また、いろいろな意味で身近に感じているスペインとイタリアも、この危機を脱するために正しい道を進んでいるように見えます。このように明るい兆しが見えています、このまま進んでいくことを期待しています。ありがとうございます。

バニンコバ:
 ローリンソン教授、ありがとうございます。尾上教授、スピーカーの方々が提起された点について、コメントをお願いできますか?

尾上:
 はい。中島氏、高屋教授、岩田教授の非常に重要なコメントにお礼を申し上げます。それらについて、できるだけお答えしたいと思います。まずは、中島氏のコメントです。中島氏は、資金移転同盟と政治的統合について、ドイツの政策の観点から、批判されました。現状を見ると、これは事実です。私も同意見です。そこで、この問題、つまりドイツの政策に焦点を合わせたいと思います。ギリシャの問題はドイツの問題でもある、と言えると思います。ドイツは今、資金移転同盟の確立、EFSFおよびESMの拡大、ユーロ共同債の発行に反対しています。ドイツでは、60%の人々は、ユーロ圏の崩壊に関心を持っていないと言われています。このようなドイツの姿勢は、ユーロ圏が、ドイツを中心とした天動説的システムに向かう危険を示唆していると思います。ドイツは、ドイツの納税者の利益を守るために、他国による経済の調整を必要としています。しかしこの傾向は、ユーロ圏全体をますます不安定なものにします。例えば、債務国にも強いられるドイツの財政緊縮政策は、ユーロ圏をデフレ・スパイラルに追い込みます。非常に有名な投資家のジョージ・ソロスは最近、ドイツの過剰な財政緊縮政策を非難していますし、世界的に有名な経済学者のポール・クルーグマンもフランスの「ル・モンド」紙のインタビューで、インフレは問題ではなく、解決策だと強調しています。これは正しいかもしれません。ドイツの責任は、ヨーロッパの救済を率いることだと私は思います。ドイツは今、欧州の統合を深めるための方向性を示さなければなりません。高屋教授がおっしゃったように、経常収支の不均衡が今、大きな問題になっています。ドイツは、EU内の輸出が多いため、大きな黒字を計上しています。この黒字を使って、南ヨーロッパの工場に投資し、また、失業から逃れる南ヨーロッパからの移住者を受け入れるべきです。これは、19世紀にイギリスが実行した本当のトランスファー・メカニズムです。今こそ、ドイツは当時のイギリスと同じ役割を果たさなければなりません。このような状況の下で、ドイツは現在、フランスとともに、ユーロ圏の救済策を提示しようとしています。例えば、フランスのバロワン経済・財政・産業相とドイツのショイブレ財務相は、共同声明を発表し、その中でユーロの必要性を主張し、ユーロを擁護すると宣言しました。ドイツの政治家は今、徐々に考えを改めつつあると思います。例えば、元首相のシュレーダー氏も、「ル・モンド」紙の取材を受け、その中で、経済政府と、EUのさらなる連合の必要性を主張しています。この経済政府という概念は、ドロールやベレゴヴォワなどのようなフランスの政治家によって提唱されました。しかし、これまでのところは、ドイツがこれを強く拒絶しています。それによって欧州中央銀行(ECB)に関する権限が奪われるかもしれないからです。ところが、シュレーダーは、ドイツはフランスの考えを進めるべきだと言ったのです。シュレーダーは、ヨーロッパは、ドイツ的なヨーロッパではなく、ヨーロッパ的なヨーロッパを構築すべきだということを強調しています。この議論は、非常に大きな変化を表しています。今、EUの連帯が崩壊しつつあると言われていますが、それは事実ではありません。ドイツとフランスの協力関係は強化されています。この協力関係はますます強くなると私は期待しています。政治的統合を実現するためには、良好な経済状況を育むことが必要だと言われてきました。今は、反対に、経済的統合を実現するための、政治的な連帯が必要とされています。この点を私は主張したいと思います。

 次に、高屋教授の財政統合についてのコメントですが、財政統合あるいは財政同盟に向かって進むためには、いくつかのステップがあると私は思います。第一に、ECBは、最後の貸し手になる必要があります。第二に、ESMを拡大する必要があります。第三に、ユーロ共同債を発行する必要があります。そして第四に、経済ガバナンスを法制化する必要があります。

 そして最後に、資金移転同盟とは何を意味するかについての岩田教授のコメントですが、これは直接的な介入ではなく、間接的な介入を意味すると思います。つまり、それは、私がバルビエ-ゴシャールの考えを通じて話したように、財政連邦制という意味です。もちろん、資金移転同盟の具体的なメカニズムの問題が残されています。このようなメカニズムを設計することは非常に困難ですが、徐々に資金移転同盟が進むことを期待しています。以上です。

ベックス:(非掲載)

尾上:
 私もひと言申し上げます。おそらくベックス氏は、私の意見を少し誤解されていると思います。私は確かにクルーグマン教授の考えをご紹介しました。もちろん彼は、アメリカの経済学者がよくするように、少し誇張して、センセーショナルな言い方をしています。彼はポスト・ケインジアンですが、ケインズ派の政策によれば、短期的に見れば、インフレ政策は合理的なものです。これは今、ケインズ派の間で強調されていることです。ですから私は、クルーグマンの考えに完全に同意するわけではありませんが、彼の考えは理解できます。なぜなら、私はデフレ・スパイラルを恐れているからです。それは、特に、ギリシャや南ヨーロッパの国々のような貧しくて小さい国の場合に、非常に深刻な問題となります。これが私の言いたいことです。

岩田:
 では、高屋教授、何かご意見はありますか?

高屋:
 今のインフレの問題については、おそらく共同的な通貨を使った時には、やはりインフレを一つの解決の選択肢にはできなくなっているだろう。そういう意味ではクルーグマンではなくてやはりECBなりのやり方でしかユーロの共同的な運用というのはできないのではないか。というのは、共通して5%ずつすべての国で上げていこうというのは難しい。あるいは10%も難しい。下手すると、ある国は30%、ある国は5%というような格差が出てしまうかもしれない。結局、ユーロを導入した時には、共通のインフレ率を目指さないといけないし、しかもそれは低いレベルでやらざるを得ない。だからそういう意味ではインフレでもって解決しようという策というのは、もはや共通通貨を使った時には難しいのではないかというのが私の考えです。

 もう一つ、私、一つお聞きしたい点ですが、言いたいのは、先程、状況が深刻な時期は過ぎたということをベックさん、あるいはローリンソン先生もお考えかなと思います。私もそういう気はしています。というのは、昨日の首脳会議でもそういうコンセンサスができたようにも思います。だから何が言いたいかというと、緊張感がなくなってきているのではないでしょうか。危機が、一時的に過ぎ去ってしまって、ボトムがもう過ぎ去ってしまったという緊張感がなくなりつつあるのではないか。あるいはそれは非常に、私にとっては、危機的な状況、それこそ危機なのではないかな。やはりもう少し緊張感を維持しながら次のリフォームを考えないといけないのではないかと考えています。だから、先程のユーロ共同債の導入についてもそうなのですが、確かに今危機が過ぎ去ったので、今それに賛成する国は少なくなるかもしれないのですが、むしろ、だからこそ今の時期に導入の道筋をつけておくことが将来、あるいはすぐ来るかもしれない次の危機の備えになるのではないでしょうか。そういう意味では今のアトモスフィア、環境、雰囲気というのが少し逆に危険かなというのを今感じたので、あえて言わせていただきました。

バニンコバ:
 ベックス博士、何かつけ加えることがあれば、簡単にお願いいたします。

ベックス:(非掲載)
 
バニンコバ:
 わかりました。それでは、会場の方々からの質問に移りたいと思います。こちらにマイクをお願いできますか? お願いします。

林(EUSI東京):
 広範囲にわたる講演と議論をどうもありがとうございました。二つ質問があります。主にベックスさんへの質問ですが、ローリンソン教授と尾上教授の講演とも関連しています。最初の質問は、金融危機と金融規制に関するものです。ご存知のようにECBの政策の3年物資金供給オペは非常に効果がありましたが、資金供給が金融市場を安定化させる効果は一時的にとどまると見られています。一方、銀行は自己資本比率を高めることを求められていますが、EUにおける金融規制の協調は未だ限定的と考えられます。EUにおける金融市場の安定化あるいは金融機関の強化を促すためにはEUにおける金融規制・監督の一段の協調が必要ではないでしょうか。第二にユーロ共同債と財政規律です。ここで、ユーロ共同債を二つに分類したいと思います。一つ目は質の悪いユーロ共同債、二つ目は質の良いユーロ共同債です。財政規律が弱いままの「質の悪いユーロ共同債」を発行しようとしても、ドイツは拒絶します。しかし、財政規律を強化するための中長期的な議論が組み込まれた「質の良いユーロ共同債」であると市場が認めれば、日本を含む世界の金融市場から受け入れられる可能性があるのではないでしょうか。これについてご意見をうかがいたいと思います。ありがとうございます。

バニンコバ:
 会場からあと3つほど質問を受けてから、回答に移りたいと思います。マイクを左側にお願いします。

(会場の男性):
 私の質問が二つあります。本当にヨーロッパ、そのクライシスというのは回復しているのか。それから二番目は、資金調達についてです。中国からの資金が入る可能性はないのでしょうか。

バニンコバ:
 時間が遅れていますので、あと2つほど会場の方からの質問をお願いします。

(会場の男性):
 私の質問は中国とヨーロッパの関係にかかわるものです。現在の問題は、長期的な視野で見れば、いわゆる金融資産の世界的な不均衡、言い換えれば、世界的な経常収支不均衡の一つの側面ではないかと思います。したがって、主な問題は、ヨーロッパにとって最も重要な問題の一つは、いかにして中国や他の新興市場の資金を呼び込むかということだと思います。そこで、私の質問は、EUには、中国や他の新興市場から長期的に資金を呼び込むための策はあるのか、ということです。

バニンコバ:
 ありがとうございます。あと一つ質問を受けたいと思います。

(会場の女性):
 父はドイツ人、母はフランス人なので、私はヨーロッパをとても身近に感じていて、今回の話し合いに非常に関心があります。壇上にいらっしゃるヨーロッパの方々は、この質問をよく耳にすると思いますが、ここではまだ提起されていない質問だと思いました。ヨーロッパの市民は、この問題にあまり関与していないというか、さまざまな意味で、きちんと話し合いに参加していないという印象を私は受けています。ヨーロッパの市民は、第一に、ヨーロッパ各国の市民であり、それによってヨーロッパの市民になるわけですが、ヨーロッパの市民権などというものは、今のところは存在しません。また、EUにおける投票も、各国の投票であり、ヨーロッパの投票については、多くの国では、参加や議論の度合い、認知度が比較的低いのが現状です。また、特にここ数カ月は、ヨーロッパの一部の政治が悪評を受けています。これらの理由から、EUの市民は、それぞれの国の主権を手放すことに抵抗があるのだと思います。なぜなら、民主的な構造を構築するために重要なものを手放すことになるかもしれないと彼らは考えるからです。ですから、私の質問は、ヨーロッパの制度改革、特にヨーロッパの制度への市民の関与を深めるような改革を先に実行せずに、短期間のうちにEUの財政政策を変革することは可能か、特に、さらに統合を進めるか、何かしらの連邦政策を導入するような変革をすることは可能かということです。市民の要求を考慮に入れつつ、それを短期的に実現するためには、どうすればいいのでしょうか。ありがとうございます。

バニンコバ:
 ありがとうございます。それでは、スピーカーの皆さんに、ここで提起された問題についてお答えいただきたいと思います。ベックス博士、ローリンソン教授、尾上教授の順番でお願いします。

ベックス:(非掲載)

バニンコバ:
 ベックス博士、ありがとうございます。かなり詳しくお答えいただいたので、少し時間が足りなくなってきています。ですから、中島氏と高屋教授に、何かつけ加えることがあれば、お話しいただいて、そのあと時間があれば、他のスピーカーの方々にもおうかがいします。

中島:
 僕は一点だけ。ユーロ危機が回復しているのかという質問がありましたが、今はECBの大量の資金供給で安心感が広がっているというのが実態。もちろんフィスカルコンパクトが昨日調印されたということで、長期的には財政赤字がコンテインされるということで、これは極めてポジティブである。多分、今月末にはファイアーウォールが拡大されるということで、出てくるニュースは極めてポジティブなニュースが出てくるので、そういう意味ではこれはフォーザタイムビーイングと言いますか、しばらくはユーロにとって非常にプラスだと。ただ結局、物事の本質は、結局財政赤字から始まったわけですから、僕がやっぱり心配するのは、マイナス成長の中でやっぱり緊縮をとるということで、本当にギリシャの財政赤字がみんなで約束した通りに本当に減っていくのかどうかと。例えばスペインも去年6%と言ったのが結果的に8.5になって、今年4.4%が目標ということですから、これはやっぱり非常に苦しいわけですね。ですから実際に財政赤字の数字がこれから、多分半年か一年後出てくる中で、それが、何だ、あまりうまくいっていないじゃないかということになった時のマーケットは、非常にチャイルディッシュですから、マーケットは、また再び同じようなゲームに参加する可能性はある。そう思います。

高屋:
 はい、私もユーロクライシスの回復についてのコメントということで申し上げさせていただきますと、中島さんがおっしゃられたように、今はECBによるバズーカが非常に効いていて、非常に小康状態が保たれている状態かなと思います。だけど、本来のキャンサー、癌が取り除かれているかと言うと、そうではない。今は小康状態に過ぎないだろうと思います。じゃあどうやったらキャンサーを、癌を取り除けるかと言うとやはり成長戦略をきちっと整えていき、その中でやはり成長なくして財政再建なしという、まあ民主党みたいな話ですが、成長というのをやはり遂げるような戦略をやっていかないといけないだろう。財政再建を先にやるか成長かというのは難しい問題ですが、やはり両方同時に難しい方程式を解いていかないと仕方ないだろう。まあ、財政再建への道というのは、ある程度、道がついてきたのかなと思います。だからマーケットも落ち着いているのかなと思います。だけど、成長に関してはまだ議論がそれほどされていません。実際、実行もほとんどまだされていませんので、特に南ヨーロッパの国々、ギリシャ、ポルトガルなどで成長戦略をどのように整えていくのか、そして実際にその成長の数字が出てくるかどうか、というのが、やや長期的に見た場合の課題だろうと思います。もしそれが出てこなければ、財政再建もうまくいかないでしょうし、そうなるとやはり次の危機というのが来るかもしれません。だから成長ということをやはり重視したいと思います。特にイノベーションとかを重視した戦略というのをやっていただきたい、ということを期待しています。

バニンコバ:
 はい。そろそろ時間がなくなってきましたが、尾上教授、何かつけ加えることがあればお願いいたします。

尾上:
 EUの金融規制についての質問にお答えしたいと思います。本日はこれについてお話ししませんでしたが、これは非常に重要な問題です。この4月に私は本を出版します。その中で、金融規制の重要性を強調しています。金融危機のあとでEUがアピールしたのは、金融規制のことだからです。これは非常に重要です。このご意見に私も賛成します。

岩田:
 どうもありがとうございました。時間がきました。約5分オーバーしております。もうまとめることは多分できないと思いますので、どういう問題が今ディスカッション、現地も含めて世界で、クルーグマンを含めてですね、議論されているかというのが明らかになったことで今日のカンファレンスの目標の半分は達成できたのではないかと思います。まだ未決の問題がある、制度的にまだ解決しなければならない問題がある。一時的にマーケットは、ポジティブと言いますか、楽観的な状態になっているわけですが、なおいくつかの懸念が残っているから、我々はそれについてなお、注意をしていかなければならない。それから中長期的に、先程のインフレかどうかという問題は、これは経済思想から始まって、どのような資本主義を設計するのかという問題にまで至る非常に広大なテーマですので、ECBとコミッションは明らかに反インフレということを起点に据えて長い間議論をしてきたわけですが、尾上先生はそれと少し別な見方を提示されたわけです。

 今日ここで何か解決策が出るとは到底思えませんので、これがスタートということで、またいろいろと議論をしていただければというふうに思います。

 今日は朝から、午前中から長い間たいへん集中した議論をベックス氏、ローリンソン先生、尾上先生、そして中島さんと高屋先生、皆さんにお願いしてたいへん高度な議論ができたのではないかというふうに思います。どうも皆様、本当にありがとうございました。

 最後、拍手で皆さんお願いいたします。
テキスト ボックス: EUIJ九州 第一回 国際会議
欧州の挑戦 − 危機の克服に向けて
平成24年3月3日
テキスト ボックス: 【第三部】
ディスカッション
テキスト ボックス: 討論者:

ペーター ベックス  欧州委員会経済金融総局 国際経済金融グローバルガバナンス部長
  (ベックス博士の発言は、都合により非掲載です)
フランシス ロウリンソン 関西学院大学教授
尾上 修悟  西南学院大学教授
中島 精也  伊藤忠商事株式会社チーフエコノミスト
高屋 定美  関西大学教授

 進行:岩田 健治  九州大学教授
 進行:Eva BANINCOVA  神戸大学准教授